フランス流「贈り物」の美学

30年暮らしてわかった、心を伝えるギフト文化の真髄
「贈り物は、相手との関係性を映す鏡である。」
フランスに暮らして30年以上。この国での贈り物の文化に触れるたび、私はそんな言葉を実感しています。フランス人にとって、ギフトとは単なる“モノ”ではありません。そこには、「なぜそれを選んだのか」という物語と、「あなたを思っている」という静かなメッセージが込められています。
今回は、フランスならではのギフト文化、日常の中にある贈り物の習慣、そして私が見てきた“贈る心”について、みなさんにご紹介します。
日常の中の“ちょっとしたギフト”文化
日本では「何か特別な日=プレゼント」というイメージが強いかもしれませんが、フランスではもっとラフに、もっと自然にギフトが交わされます。
たとえば、週末のディナーに招かれたとき。ほとんどのフランス人が、ホストにちょっとしたギフトを持って行きます。定番はワインやチョコレート、地元の美味しいチーズやパンなど。その土地に根ざした“ちょっと気の利いたもの”を選ぶのがポイントです。
ここで大切なのは、高価なものではなく“心遣い”。包装も控えめで、あくまで「お招きありがとう」の気持ちを表現するためのさりげないジェスチャーとして捉えられています。
フランス人が大切にする「オリジナリティ」
フランスでは「みんなが持っている」ものよりも、「あなたらしい」「その人らしい」ものを選ぶ傾向が強くあります。だからこそ、ギフト選びには“センス”と“観察眼”が問われます。
たとえば誕生日や記念日に贈るプレゼントは、相手の趣味や好みを反映させたもの。読書好きには話題の本、美容好きにはオーガニックのスキンケア、アート好きには展覧会の招待券…と、パーソナルな要素を取り入れることが重要です。
私の知人で、毎年親友に手作りのジャムを贈るマダムがいます。果物の産地や時期にこだわり、ラベルも手書き。派手さはなくても、「あなたのために時間をかけたのよ」という心が伝わる贈り物なのです。
ギフトに込められた“哲学”——受け取る側の流儀
興味深いのは、フランスでは「贈られたものをすぐに開けない」ことがあるという点です。パーティーの席で包みを開けて大げさにリアクションするのではなく、あくまであとで静かに楽しむ。そこに、「あなたの気持ちはちゃんと受け取りました」という成熟した大人のマナーがにじんでいます。
また、ギフトにお返しをしなければならない、という義務感も日本ほど強くありません。大切なのは「循環」より「感謝と共有」。形式よりも、感情のやりとりを大事にするのがフランス流です。
年間行事に見るフランスのギフトシーン
もちろん、フランスにも贈り物をする定番の行事はあります。中でも特徴的なのが以下の3つ。
● Noël(クリスマス)
フランスで最大のギフトイベント。家族全員にプレゼントを用意するのが一般的ですが、最近は“贈りすぎない”ミニマルな傾向も。子どもには希望の品を、両親やパートナーには癒し系や日用品が人気です。
● Fête des Mères / Pères(母の日/父の日)
手作りカードや、フラワーアレンジメントなど、“手をかけたもの”が好まれる日。日本と違って「モノ」より「時間をかけた贈り物」が重視される傾向があります。
● La Rentrée(新学期)
意外かもしれませんが、先生や保育士さんに感謝を伝えるためのプチギフトを用意する家庭も。チョコレートや小さな雑貨、手書きのメッセージカードなどが人気です。
変わりゆくギフトの形——サステナブル&エシカルな選択へ
近年のフランスでは、「物を減らす」「環境に優しい選択をする」という視点がギフトにも広がっています。
再利用可能な布製ラッピング(furoshiki)や、地元のオーガニックブランドの商品などが注目され、日本文化の“包む美学”がエコの観点からも再評価されています。
また、「モノ」ではなく体験ギフト(料理教室やワインツアーなど)を選ぶ人も増えています。人生を豊かにする“思い出”こそが、究極のプレゼントだという考えが根付き始めているのです。
おわりに——“贈ること”は“生き方”を映す
フランスで暮らす中で、私が何度も感じてきたのは、「贈り物とは、その人の生き方がにじみ出る表現である」ということです。
値段やブランドではなく、「相手のことをどれだけ思っているか」がすべて。
Gift Journalの読者のみなさんも、ぜひ一度、「贈る理由」や「選ぶ意味」をじっくり考えてみてください。
それはきっと、あなた自身の価値観を見つめ直す、静かな時間になるはずです。
筆者プロフィール
パリ在住の文化コーディネーター。大学卒業後渡仏し、フランス各地の生活文化やライフスタイルに精通。近年は日仏間のギフト文化比較や、日本の手仕事を伝えるワークショップも開催中。